経営パワーの危機―会社再建の企業変革ドラマ

本書は三枝匡氏の三部作のうちの二作目。一作目の『戦略プロフェッショナル―シェア逆転の企業変革ドラマ』が面白かったので読んでみました。一作目が企業における事業戦略を中心に書かれていたのに対し、二作目は会社経営を中心として書かれています。ちなみに一作目と二作目にストーリー的な関係はありません。
話の筋は、東証一部上場企業が買収した赤字続きの一企業に本社から(本社の)経営幹部候補が送り込まれ、失敗と成功を繰り返しながら企業を再生していく話です。例によって実話に基づいているらしく、(少し上手く行き過ぎの感はありますが)なかなかリアリティを持ったストーリーが展開されています。

会社経営は基本的には事業戦略の延長線上に位置していますが、それ以外にも事業ポートフォリオの構築や人事など様々な周辺要素が付加されて成り立っています。本書もその体系のとおり、事業戦略に主眼を置きつつも以下の問題について語ることで、会社経営にまつわる様々な悩みと解決方法を取り上げています。

  • 人事上の様々な問題
  • 組織の作り方
  • 成長戦略(製品/サービスの拡充)について
  • 正しい社内文化の構築とは


実話を基にしていることもあって、リアリティがあるため人によってはかなり同調できるところがあるのではないでしょうか。私は経営者になった経験はありませんが、本書で語られている悩みの多くは経営者であれば一度は経験するような事ばかりだと思います。本書を読んだ率直な感想は「経営者は様々な人の助言に耳を貸しつつも、最後は自分の判断でリスクを取り勝負を掛けて行くしかないのだ」ということです。文章にすると至極当たり前のように聞こえますが、改めて強く認識しました。



ただし本書に出てくる話はあくまでも企業再生の話であり、主人公が経営を任されるところからスタートします。よって、会社にある程度の人的リソースや企業文化が確立された状況での経営体験が語られているため、一から起業して時とは発生する問題の種類がやや異なっていると思われます。


本書を読んでいれば自然とわかるのですが、三枝匡氏は「日本では若いうちに経営経験を積む機会が少なすぎる」というご意見を持っておられるようです。更に「その問題を解決しなければこの先日本企業が大きく飛躍することが困難になる」とも主張されています。私はIT企業に所属しているので、若いうちに大きな仕事を任される機会には恵まれていますが、こと "経営経験" という意味では機会はぐっと減ります。それは私のビジネスマンとしてのレベルの問題もあるでしょうし、会社規模からいってそのような大きなリスクを犯すことが難しいという事情もあります。それにそもそも経営機会は人から与えられる物ではないのかも知れません。しかし会社が一定の規模に達した暁には組織としてそのような経営機会を与える "仕組み" が用意されていれば、日本にとっても個人にとっても良いのではないかという思いはあります。


一作目の『戦略プロフェッショナル―シェア逆転の企業変革ドラマ』を読んだ時のような感動がなかったのは、本書が二作目であり、続編独特の惰性感が増したからなのか、私の戦略家としてのレベルがUPしたからなのか定かではありません。ただし面白いビジネス書であることには変わりなく、経営についてざっくりと勉強したいと考えている方にはお薦めの一冊です。